ミニレクチャーA 在宅緩和ケアにおける訪問看護師の役割
帝京大学医学部総合病院 麻酔科(ペインクリニック)高橋Dr
在宅医療でどう疼痛緩和に対応するか
私は東京の帝京大学の緩和ケアチームに勤めながら、千葉県では在宅医療に関わっています。千葉県では在宅医、東京都では病院の緩和ケアという少し面白い立場でやらさせていただいています。
本日は「在宅緩和ケアにおける訪問看護師の役割」という題を承ったのですが、非常に難しいテーマです。私も看護師さんの苦労はだいぶわかっているつもりなんですが、それをどうしたらいいかというのは看護師の問題というよりはむしろ医者の問題なので、なかなか難しいところがあります。
そうしたなか、やはり患者さんをいろいろな面でサポートできるのは、一番患者さんに近い看護師さんなのではないかと思っています。そこで、看護師さんがやれること、やって欲しいことということで、少しお話をいたします。
在宅のケアというのは病院のケアとは全く違います。在宅医療は患者中心の医療で、生活の中の医療で、病院医療と同じことをやる場所ではないというのは、もう現場にいらっしゃる皆さんはご存じだろうと思います。ただ、どうやっていったらいいかについては、いろいろ迷う点があります。
先ほどの沖田先生の症例にもありましたように、やはり自宅で過ごす際にはいろいろな葛藤があります。そのために痛みのコントロールが大変だということもあるし、それから心理的、社会的な葛藤があったりすることもあります。
そういうものにどう対処していくかというと、教科書的に言うと健康を守るということになると思います。WHOでは健康の定義を「身体的、精神的、社会的、霊的に充分満足いく動的な状態」としています。動的な状態というのが一つのポイントです。また、単に疾病、病弱が見られることではないということ。身体的な不調だけ改善しても、充分な健康状態ではないということです。
「トータルペイン、トータルペイン」とよく言われますが、どうしても我々は「まず身体的苦痛を改善しないと、他の苦痛の緩和などはあり得ない」という見方をしてしまいます。そうすると、麻薬の使い方がどうか、痛みを取るために神経ブロックをやる、放射線治療をやるというようなことをまず考えてしまうわけです。それはもちろん大切なことなのですが、身体的な苦痛が解決するに従って社会的苦痛、精神的苦痛、さらには霊的苦痛が問題になってくると我々には見えてしまう。ところが、実際にはスライドのようにオーバーラップしている部分が随分あります。今日はそこにもう少し焦点を当てたいと思います。そうすると、医者も含めて在宅に向かう医療従事者、特に看護師さんがどう患者さんと向き合っていったらいいのかということが少し開けてくるのではないかと考えます。
繰り返しになりますが、在宅ターミナルケアでは体の痛みに対する対処については、WHOの疼痛除痛ラダーをはじめとしていろいろなやり方が確立されています。社会的苦痛については、現場にいる方は病院から在宅に帰っただけで痛みが軽減したり、麻薬の必要量が少なくなったりという現象を目にすることが多分あると思います。ただそれは薬理学的に、あるいは科学的に納得がいかない部分で、あまり証明されていないので、無視したり、そのまま過ごしているところがあると思うんです。
そういう意味で社会的苦痛の低減に対しては、在宅医療というのは入院医療に比べてある程度有利な状況にあるというのは確かだと思います。もちろんこれは身体的痛みに対しての対処というのが確立されて、できているという前提に立ちますが。しかし、それだけではやはりだめで、どうしたらいいかというのはまだ我々もよくわかっていないんだろうと思います。
在宅でできる精神的、霊的ケア
今、私が少しやっている方法としては、まず呼吸法があります。よく患者さんをご覧になるとわかると思いますが、いろんな苦痛があります。身体的苦痛だけでなく、不安があって精神的な苦痛や社会的な苦痛を持っている方もいらっしゃいます。霊的苦痛を持っている方もいます。そうした方の大半は呼吸が浅くて速い場合が非常に多く見られます。ですから、難しい呼吸法はいろいろありますが、腹式の普通の静かな呼吸を指導してあげるだけでもだいぶ違います。もちろんその中に本格的ではなくてもいいですが、瞑想のようなものを入れたりすればもっといいですね。
これからお話しする心理療法もそんなに難しいことではありません。患者さんとのコミュニケーションの中でやれることをやれればいいと思います。こうした心理療法はやはり在宅医療の中では看護師さんがやるのが一番可能性があるし、理想的ではないかと思っています。私の患者さんでは一部もう始めていて、いいだろうなあと思っております。
在宅でもできる心理療法「サイモントンプログラム」
在宅でもできる心理療法として「サイモントンプログラム」を紹介します。私はこれを特別な心理療法だとは思っておりません。このプログラムはターミナルに限らず、がんの患者さんのケアに焦点を当てて出来上がったものです。カール・サイモントンという先生が長いことかかって作り上げた心理療法の組み合わせです。
一つひとつはそんなに難しいものではありません。スライドに挙げられている項目を上から順にやっていきます。まず最初の「喜びのリスト」について。喜びのリストというと、少し宗教がかっていると思う方もいるかもしれませんがそういうことではなく、日常生活や人生において、うれしいなとか、ワクワクするなというものを挙げるということです。
ストレスがかかっている方や身体的な失調のある方は喜びのリストの数が非常に少ないんです。この会場の皆さんの中でも、多分これをたくさん挙げられる方は精神的に健全な方です。ものすごく忙しくて、あまりいろんなことをやる暇がない。毎日、仕事、仕事という方はこういうものがあまり挙げられません。非常に少ないか、ゼロという人もいます。
次のビリーフワークについて。ビリーフというのは自分の信念のことです。がんの患者さんは当然のことながら、こうした信念が悪いものだったり、あまり健全でない思いをたくさん持っています。先ほど出た症例の患者さんもまさにそうです。そういうものをうまく書き換えていくのがビリーフワークです。
もちろん紙に書くのが一番いいのですが、紙に書かなくても思いを少し変えていくという作業をすることによって、免疫力が高まります。それについてはデータもある程度出ています。そういうことでがんとうまく付き合う。これによって、いろんな身体的な症状も和らぐということがわかっております。これも一つの有力な方法です。
この二つは非常に簡単なので、現場でやっていこうと思えば、多分すぐにできると思います。
それから、イメージ療法や瞑想というのは、少し複雑な作業です。イメージ療法は自分の姿や自分の抵抗力、それから病気のイメージを表出するものです。絵に描いたりするのが一番具体的でいいのですが、そういうものを見ていきます。
それから次の瞑想について。瞑想しながらストレスと病気の恩恵を考えるものです。病気になってどうだったか、それからがんになったとき、再発があったときどうだったかということを自分の生活の中で考えてみるということは、患者さんにとっては逆にストレスを和らげることにつながります。
こういうことを日常のコミュニケーションの中でどんどん取り入れてやられていくといいと思っております。
実際にこれから私もやっていきますし、もしこれでやってみようかなと思う看護師さんがいたら、ぜひ一緒になってやっていただきたいと思います。一般的な心理療法はどうしても精神的な苦痛、霊的な苦痛に焦点が当たると考えられやすいのですが、サイモントン療法はがんの腫瘍による痛みについてもある程度は軽減できるということがわかっております。
少しカール・サイモントンという人について説明させていただきます。この方は元々は放射線治療の専門の医師でした。35年ぐらい前、放射線治療をやっていく中で、がんに対する心の持ち方や精神状態がどうも治療結果に非常に大きく影響を与えるということに気が付きました。そこで放射線科を辞め、このプログラムを作ったということです。
サイモントン療法の拠点はもちろんアメリカです。あとはドイツ、ポーランド、スイスなどが主なところです。日本にもアメリカの次ぐらいに大きな拠点があって、医療従事者を中心にだんだん注目を浴びているところです。
Amazonなどで彼の著書を検索してもらえれば、日本語の本が出ています。代表的なもので日本語になっているものが3つか4つぐらいあります。私も読みましたが、こういうものを読んでみると、なんとなくおわかりになると思います。
今日は全部やると大変なので、基本的な考え方と、これを看護師さんを中心にして在宅でどうやって応用するかという話をしたいと思います。
サイモントンプログラムの前提
まずサイモントンプログラムの考え方の前提として「人間は基本的に健康な存在である」というものがあります。健康というのは、先ほどのWHOの定義ではないですが、人間は本来、身体的だけではなく、精神的、社会的、霊的に健康な存在であるということです。それから健康であるためには、病気を治すとかそういうことではなく、自分自身のエネルギーを効果的に高めるということです。エネルギーと気は別の起源があるのですが、今では同じように解釈されることが多いようです。
気を高めるというのを、免疫力を高めるという言葉で置き換えることもあります。そうしたものは目に見えないのでなかなか証明しにくいのですが、それを高めることが重要であるとしています。
そしてもう一つ大事なことは、患者さんにそれをやってあげるだけではなく、患者さんにやる側が健全でないとできないということです。これが大きな一つのポイントで、我々がすごく忘れがちなポイントではないかと思います。
生きる喜びを挙げていく「喜びリスト」
プログラムの一番最初に「喜びリスト」というのがありましたが、これが一番簡単です。これを患者さんとの対話の中でやっていきます。日常生活や人生に深い喜びや充足感をもたらすものを挙げていくわけです。最初は思い浮かべることから始めます。
それは患者さんによっていろいろあると思います。人によっては音楽を聴くことが好きだったり、それから誰か好きな人と一緒にいることが一番の喜びであることもあります。ペットと一緒にいることが良かったり、いろんなことがあると思います。それを書き上げてみるのが一番いいのですが、挙げてみてください。
病気のケアや治療とは全く関係ないようなことなので、「何言い出すんだろう」と最初は思われるかもしれません。けれども、実際に患者さんに働きかけてみると、結構「ああ、そうだ。昔はあれ好きだったんだけど、今、全然そう思わないな」という発言が必ずあるはずです。例えばそれがスポーツを見ることだったら、「スポーツを見るのは今できるけれども、スポーツをやることが非常に好きだった。だけど、今はできない」となると、逆に少し不健全な思考になります。そのときは「今は少し体がうまくいかなくて、そのスポーツはできないかもしれないけれど、それをやっているところを思い浮かべてみましょう」というような誘導をします。
自分が好きだったもの、「これがあったら俺は生きていられる」ということが本当は一つや二つあるはずです。心理学的には健全であればあるほど、このリストはたくさんになっていくはずです。ですから、それによって患者さんの経過をうまく追うこともできるわけです。
最初こういうことを聞くと、「そんなの何もないよ。俺は今、がんなんだから」という答えが返ってくることも結構あります。それでも、うまくコミュニケーションの中で誘導して、会話の中で引き出すようにしていきます。サイモントン療法は「人間は幸せになることが人生の目的である」という前提に立っているので、幸福を体験することを意識していくのがこの手法のねらいの一つです。
ただ、さっき言ったように、ケアする側も健全でないとできません。ですから、まずは皆さんがこういうことを自分自身で思い浮かべてみられるといいと思います。そうすると、意外と少なかったりします。特に忙しくて頑張っている方は、だいたいそういう方が多い。看護師さんもそうです。こういう会に参加する暇もないみたいに忙しくしている方は特にそうです。
例えば患者さんのところへ行くとき、「今日は嫌な患者さんのところだから、頭痛がするな」という方もいますよね。私もあります。胃が痛くなったりすることもあるでしょう。これが身体的な症状です。そういうことが多い人は喜びリストが少ないですよね。何もがんの患者さんに限ったことではないんです。
だから、これをやるようにする。自分もやって、それで患者さんにもやってもらうという、シェアをすることがとても大事になります。これだけでもちょっと違うんです。こういうことを常に常にやるような癖をつけていく。例えば、よくがんの疼痛で言うブレーク・スルー・ペインのようなものに、もちろんレスキューを使うという方法もありますが、そういうことだけではなく、こういうことを常に意識して、「自分は何のために生きているんだ」、「何のためにどうしていると楽しいんだ」ということを思い浮かべる。そういうことだけでだいぶ違ってくると言われています。
不健全な信念を書き換える「ビリーフワーク」
それから次のビリーフワークという作業も大事なものです。これはもう少しだけ複雑になってきます。患者さんにはいろいろな不健全な思いが、がんが告知されていても、されていなくても非常に多いものです。「どんなことをしても治療法がないと、がんセンターの先生に言われた」とか、「もう何をやってもだめだと家族に言われた」とか、そういう人は随分いると思います。「もう私はそんなに長くなくて死ぬんだ」と思ってしまう。それに対して、「そうですね」と言ってしまう医療従事者もいるので、追い討ちをかけてしまいます。そこで、この不健全な信念を書き換えるわけです。本当は紙に書いて書き換えるのが正式なやり方ですが、言い換えるのでもいいと思います。
「ポジティブ・シンキング」とよく言いますよね。積極思考。「私はいつまでも健康でいられる」。これ嘘ですよね。だって、この中にいる皆さんだって、いつまでも健康で生きていられる人は一人もいないわけですから、これは嘘です。嘘をついてまで曲げる必要はありません。そうではなくて、「すぐに死なないかもしれない」と言い換える。
私は常々、医者が予後を言うのは良くないことだと思っています。だいたい当たっていませんし。だから、それも書き換えてあげるんです。私は看護師さんが言うのがいいと思います。「医者にあと3ヵ月と言われて家に来たんですけど」みたいなことを患者さんが言ったら、「あなたはすぐに死なないかもしれない」と言ってあげるのは一つ重要だと思います。やりようによってはQOLが大変アップするというのも事実です。
思考を変えるという作業はすぐにはできません。「こういうふうに思うんだよ」なんて言っても、だいたい患者さんは納得しないです。特に病院でいろいろな科学的なデータを出されて、ものを言われているときは、まずすぐには納得しないはずです。ただ、「こういうふうに考えていくようにしましょうね」と言って、紙に書いておいて呪文のように毎日それを唱えるんです。プログラムでは1日6回唱えるというリコメンデーションがあるんですが、別に6回でなくても構いません。口に出して言うというのは、自分の潜在意識に働きかけますので、非常に重要です。
だいたいがんの患者さんの不健全な信念というのは一つということはまずありません。女の人なら例えば、「がんを治して元気になるのは無理だ」ということ。それから、お母さんの患者さんの場合はだいたい「残された子どもが心配だ、家族が心配だ、かわいそうだ」ということ。それから、霊的苦痛としてよく挙げられることですが、「誰も私をわかってくれない」とか、「神も仏もない」とか、「神様は私を見捨てた」などという思いがあるとします。カウンセラー的な仕事になってしまうのですが、これをうまく表出させることが、多分患者さんに近い看護師さんだったら自然にできると思います。
そういうときにどうしたらいいか。例えば「私のがんを治すことは可能である」。これは医者には言いにくいんですね。医者が言うと、「じゃあ先生治してください」なんて話になって、ちょっとわけがわからなくなってしまう。少し違う立場の看護師さんから「私のがんを治すことは不可能ではない」という言い方をする。ちょっととぼけたような言い方かもしれないですが、これでもう十分なんです。
それから、「がんで逝ったら、残された子どもたちがかわいそうだ」という信念、思考に対しては、「もし死を迎えたとしても子どもたちはそれを乗り越え、人生を切り開いていく力を持っている。必要なときに必要な助けが得られる」。こういう文言をつけるのはちょっとテクニカルな面もあるのですが、こんな信念に書き変えたり、言い換えたりするということです。
それから「誰も私をわかってくれない」という信念を「私を理解してくれる人はいる」と書き換える。「夫なんていうのは、私を理解してくれない」と言う女性の方はこういう思いが非常に強いものです。それを「夫は私が望むようには理解してくれないけれども、夫なりに認めてくれている」と書き換える。それから何よりも「私自身が自分を理解している」というのは真実ですから、こんなふうに言ってみる。
「神様は私を見捨てた」というのはよくあるパターンですが、「神様は私にこの病気を通して変化や成長の機会を与えてくれた」と言い換えたり、書き換えたりする。「何だ、こりゃ?」と思う方も多分多いと思うのですが。
「こういうふうに言い換えなさいよ」とか、「書き換えなさいよ」と言うと、患者さんはまず最初は納得しません。納得しないけれども、でもこれが仕事だと思って毎日毎日言ったり、やったり、書いたりするという作業をするうちにだんだんこの信念、思考が健全になっていきます。これがさっき言った身体的な苦痛の軽減にもつながると言われております。
日常生活における大切な健全信念
今の喜びリストとビリーフワーク、思考の書き換えだけでもだいぶ違うと思います。これはそんなに難しい作業ではありませんので、やってみられると非常にいいと思います。
病気のイメージ、がんに対するイメージや、自分のがんに対する抵抗力、闘っている姿、がんの姿などを絵に描く作業があります。絵に描いて、それを評価するというものです。
ただ、そこまで行くと、かなりカウンセリング的な仕事になってしまうので、そうではなくて、今がんがどんなふうに見えるかとか、自分の姿や力はどういうふうに見えるかということをイメージする。先ほど出た呼吸法や瞑想などの簡単なものを加えてやると、もっといいです。実はそんなに難しいことではないんですが、そういうものをイメージすることによって、どんなふうに自分が変わっていくかということを自分自身で自覚できる。そうすると、一つの目標ができるんですね。これが非常に患者さんにとってはプラスになります。
あとは一つ日常生活における健全な信念があります。先ほどから健全な信念が大切だと申し上げていますが、もう少し深く掘り下げて言うと、「人間は本質的に健全な信念の存在だ」というのは先ほど出ました。
これは少し宗教的で信じられない方もいるかもしれませんが、宇宙の本性というか、要するに霊的なものに少しアプローチしようというものもあります。人間の力の及ばない力というものが自分を知っているし、愛して思いやっている(超人的なものに対する信頼)。本当はこういうことを信じてやれるともっといいと思います。自分が誰であるかを学ぶために自分は生きているんだ。その中で病気は我々を本来の自分に引き戻してくれるということですね。
我々の人生の目的というのは、健康であって、幸せや喜びや愛などを感じることであるというのが一つの基本になっています。その上で死は肉体的な存在の終わりですが、本質、意識、魂は死後も望ましい状態で残っている。つまり霊的な存在だという意味です。そういうことを思い浮かべる。本来は瞑想しながら思い浮かべるものです。このような考えに基づいて喜びリストを挙げたり、ビリーフワークをすることができると、もっといいわけです。
ストレスと病気の恩恵
最後にストレスと病気の恩恵について。これは患者さんとのコミュニケーションの中でものすごく大切だと思います。よくがんの患者さんに聞いてみると、「あなたは○○がんですよ」と診断されたとき、その前からいろいろ症状があったりします。また、それ以外に1〜1年半前の生活上の変化、精神上の変化で何かイベントがあったり、衝撃があったりしたかどうかを振り返っていただくという作業が非常に大事になります。再発したときもそうです。再発のときはもうちょっと近い6〜8ヵ月前と言われています。その前後でどんなことがあったかを振り返るということです。
それを通じて、病気になる、がんになるということはどういうことであるか。自分にとって本当に健康を失うというデメリットがあるだけなのか。そうではないんじゃないかということを振り返るということです。がんだけではなく、病気全体についても言えることですが、人間関係が変わったり、今まで気がつかなかったことに気がついたりということはしばしばあることです。これについては看護師さんはよくご存じだと思います。そういうことを振り返って、がんが自分自身に送っているメッセージを理解するという作業を行うわけです。これも別にカウンセラーの人がやらなくても、がんの患者さんとコミュニケーションを取っていく中でできると思います。
リフレクソロジーとの併用も有効
私は別にカウンセラーの資格があるわけでもないし、それからサイモントン療法にすごく通じているわけでもありません。けれども、このぐらいだったらできるし、実際にやってみると患者さんにいい影響を与えているということがわかるので、お勧めのところだけ出しました。
浅い呼吸をしている方は深呼吸をするように。皆さんもそうなんです。ここで深呼吸ができていない人が「お前、深呼吸やれよ」と言っても無理です。自分ができるようになる。リラクゼーションができないとだめなんです。
喜びのリストについてもそうです。自分もやらないといけないんです。自分で生活の中で、生きている中で楽しいことをいっぱい挙げられる。これが精神的に健全な状態です。そういうことが挙げられる状態で、「あなたもどうだろう」とやってあげることがこのケアの第一歩だと思います。
先ほどの信念の書き換えというのは、少し時間がかかります。時間がかかるというのは、患者さんのほうでなかなか受け入れが難しいという事情もあるからです。だから、繰り返し、繰り返しやっていくというのがポイントです。
イメージ療法についてはまだ私もやっていません。けれども、ここまでやってみればもちろんいいと思います。こういうことをやっていくうちにだんだん自分のイメージが変わってきます。変わってくると本当に患者さんの顔色が変わってきます。それから、もちろん病気になってどういうことが良かったか、悪かったかというようなことが話し合えれば、もっと完璧だと思います。もちろん薬の使い方や、いろんな方法も大事ですが、こうした方法は患者さんとのコミュニケーションからできるトータル・ペインに対するケアではないかと最近私は考えています。
ただ話すだけが大変だったら、リフレクソロジーも一つの手段です。別にマッサージでもいいんですが、こういう手段と併用しながらやっていく。実際、リフレクソロジーをやっている人がやっています。少しテクニカルな話ですが、こういうことをやりながら会話すると、より患者さんの意識や感情の表出ができていきます。
リフレクソロジーの講習もたくさんありますが、医療従事者の中で圧倒的に看護師さんの受講者が多いので、ちょっと紹介させていただきました。実際に私の病院でも、今ボランティアの人に入ってもらっていますが、本当にいいと思います。
訪問看護師さんに限ったことではないですが、実践的に訪問看護師さんによるトータル・ペインのケアになると思われることをまとめました。心のあり方を四つの苦痛に分けなくても、いろいろな苦痛の捉え方に影響するということを認識して、苦痛に焦点を当てるだけではなくて、人生の喜びや感謝の念を育むような方向へ患者さんと一緒にやっていく。患者さんにだけやれというのはだめなんです。一緒に向かって、それが苦痛の軽減に結局は役に立つんだということを認識するということですね。
ケアする側もやはり健全である必要があるということ。こういうことをやっていると、在宅での先ほどの症例にも出ましたような患者さんの葛藤が少しでも和らいでいくのではないかと私は考えてやっております。
こういうことに興味のある医療従事者の方は全国的にも少しずつ増えております。先ほど「サイモントン療法」という言葉が出ましたが、「サイモントン療法」でインターネットで検索していただいても、非常にたくさんデータが出てきます。もしこういうことに興味がおありの方は私に声をかけてくだされば、もう少し詳しい話をご紹介できますので、よろしくお願いします。どうもご清聴ありがとうございました。
<質問>
質問(Dr) これはだいたい1回どれぐらい時間をかけてやるのか。
高橋Dr 必要に応じてでいいと思う。こういうことは繰り返しやる必要があるので、私の場合は病院の外来ではやっているが、実は訪問ではやっていない。私は鍼をやっており、鍼をやりながらコミュニケーションを取れる時間があるので、そのときに話しながらやっている。
在宅ではより頻繁に患者さんと接触をする看護師さんにお願いしてやっている。最初の喜びリストはとても簡単なので、そこからやってもらう。それで患者さんの様子がどう変わったかを話し合っていくというふうにやっている。
質問(Dr) 最初から足をもみ出したらびっくりすると思うが、例えば肩をもむとか、腕をもむとかしながらでも構わないか。
高橋Dr もちろん構わない。バーバル・コミュニケーションだけで「心理療法だよ」と言って大上段に構えてやると、多分患者さんは構えてしまうと思う。それに看護師さんに期待することと少し違うかもしれない。そういう意味で肉体的な接触を何らかの形で持ちながら、こういう話をしていくというのが実践的でいいのではないかと思う。
質問(Ns) すごく興味深いお話で、ぜひ実践してみたいと思う。私たち看護師が訪問に入るとき、がんの痛みがある方や精神的に弱ってる方と接すると、かなり疲れてしまう。そういうときにこういうことをやることによって、自分自身の気持ちも健康になれたらと思う。今、先生のところの看護師さんがやっているということだが、どのような効果があるのか。
高橋Dr なかなか数値で効果を評価するのは難しいが、患者さんの顔つきは変わってくる。それはまず間違いない。もちろん患者さんが乗ってくればという前提のもとでだが。「そんなことやったってしょうがないよ。どうせ俺は死ぬんだ」みたいな感じでずっと拒否的な患者さんは何も変わってこないが、そういう人は実際にはあまり多くない。
面白いもので、医者が言うとだめで変わってこないが、看護師さんに言ってもらうと変わっていく。医者がそういうこと言っても、「お前、何言ってるんだ。ちゃんとがん治せよ」という感じになってしまう。看護師さんはがんを治す人ではないから、そうではないことで自分を助けてくれる存在だと患者さんは感じている。だから、こういうことが入りやすいので、ぜひやっていただきたいと思う。
在宅で医師が適切な処置や処方をすぐにやってくれればいいが、なかなかやってくれない人も多い。そういうときにそういう状況でもできることの一つとして例を挙げた。これが意外に効く。副作用が何もないから、むしろこういうことを先に始めてみるというのは一つの手だと思っている。
≪2008年5月11日 在宅医懇話会第3回研修会≫
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