ミニレクチャー@ 骨転移痛
千葉県がんセンター整形外科 石井猛Dr
がんの種別による骨転移がんの頻度
皆さん、こんにちは。千葉県がんセンター整形外科の石井です。がんセンターの整形外科は骨肉腫という子どものがんと、軟部肉腫という大人の内臓以外にできたがん、それから骨転移がんを扱っています。今日は骨転移がんについてのお話をということで、お集まりの先生方には我々の患者さんもたくさんお世話になっています。先生方のお顔を拝見できて大変うれしく思っています。
まず骨転移の頻度ということから順番にお話ししますと、頻度については解剖の結果からしかわかっておらず、はっきりとした統計というのはありません。解剖を見ますと、肺がん、乳がん、前立腺がん、胃がんが多いと言われています。しかし、我々整形外科に骨転移がんで紹介される患者さんは、肺がんと乳がんが全体の半分を占めています。
前立腺がんも実は多いのですが、治療の対象にはなりません。どうしてかといいますと、前立腺がんというのは硬化性病変で、骨折を起こしにくんですね。逆に腎がんは数は多くないのですが、経過がゆっくりとしていてしかも病的骨折を起こしやすいので、扱うことが多くなります。
スクリーニングは骨シンチ
次に診断についてです。スライドは学生への講義のところから取ったものです。おさらいになりますが、骨転移の検索と言うとスクリーニングでは骨シンチをやります。そして、その後にレントゲンを撮ったり、CT、MRIを診断の確認のために行うのですが、これはあくまでも画像上の診断で、100%ではありません。スライドのような前立腺がんの多発骨転移では、もう見ればそのままで真っ黒に出ており、前立腺癌の骨転移として典型的であり、よくわかります。
ステージングと言うのですが、がんがどのぐらい広がっているかに関して胃がんの患者さんには骨シンチは行いません。骨シンチを行うがんというのは、肺がんと乳がんと前立腺がんと腎がんです。胃がんは解剖のときに多くても、結局、早期に転移することはないからです。また、骨シンチを1回やりますと、7万円から8万円かかりますので、保険上からもすべてのがんに対してはやらないということになります。
がんと診断されていたら、継続的な痛み、痺れ、麻痺に注意
症状から見て診断を考えた場合、この人は胃がんでもう進行中だとか、この人は肝臓がんがあるとか、がんだという診断がついている方に関しては、まず痛みがポイントになります。がんを持っている患者さんで1週間以上痛みが続けば、痛みの部位のレントゲンを撮るのが原則になります。
あと肋間神経痛というのがあります。肋間神経痛というのは普通痛みの持続時間は1分ぐらいですが、この痛みがずっと続く場合は胸椎という背骨の転移を疑います。また座骨神経痛が続く場合は骨盤と腰椎を検索するという形になります。
痺れもやはり1週間以上続いた場合は、レントゲンをとります。痺れの部で上肢、体幹、下肢と分かれるのですが、それぞれ頸椎、胸椎、腰椎という形で調べてみなければなりません。
麻痺の場合で意外に問題になるのが、患者さんは麻痺しているということは言わないことが多いことです。歩きづらくなったとか、転びやすくなったとか、立ち上がれなくなったということが多いんですが、医師に言わないことが多いです。「痛い」とは言うのですが、麻痺に関してはこちらから具体的に聞かないとわからないことがあるので、結構注意が必要です。
日常診断で骨転移、骨髄腫、覚醒腫瘍を見逃さないために
そのほか、がんの患者さんではない方の中にも骨転移がんや骨髄腫が含まれてくる場合があります。そういう方を見逃さないためのポイントは以下の通りです。
まず痛みが1ヵ月以上続く場合。1月以上続くというのは、やはり悪性腫瘍を考えて検索を行うことになります。先ほど言いましたように、持続する肋間神経痛の場合は必ず胸椎という背骨の悪性腫瘍も考えてください。
それから、体重減少ですね。だいたい肺がんの骨転移の患者さんを見ますと、7割ぐらいの患者さんは体重が減っています。3〜4ヵ月ぐらいで3kg以上の体重減少というのは悪性腫瘍を考えて診察に当たってください。
これは特に整形外科の先生にいつもお話ししているのですが、頸椎の上の方、それから胸椎の上の方というのはレントゲンが見にくいところです。そのほか骨盤の病変というのは腸管のガスと重なってしまうので、これも見逃されやすく、注意が必要です。
骨転移がんの治療は疼痛緩和、抗がん剤、手術など
骨転移がんの治療のおさらいですが、当然痛みがあれば疼痛に対してはNSAID、モルヒネ、鎮痛補助剤を使います。それから、放射線治療は疼痛に対する効果は80%以上あると言われています。ただし、放射線治療は必ず副作用、合併症がありますので、それとの兼ね合いになります。
抗がん剤も結構進歩しており、乳がん、前立腺がん、肺がん、胃がん、大腸がんには抗がん剤をやることによって、骨転移がんの痛みの緩和や治療になる時代になっています。
それから、ゾメタという薬が1年ぐらい前に保険適応になりました。ビスフォスフォネートと言いまして、がんが骨を溶かすのをブロックするような治療です。がんが骨に転移しても骨を壊さなければいいということですね。がんによる骨折の予防になるということでこれは保険適応がありますので、使われている先生方も多いと思います。
整形外科医なのに、それでは術はしないのかというと、もちろんやります。原則は病的骨折を起こした場合、特に大腿骨骨折は手術が第一選択です。あとは脊髄麻痺の患者さんです。背骨に転移があって脊髄麻痺が来たときにも手術が行われる場合があります。
下肢痛=座骨神経痛でない場合もある
症例1は65歳男性で、左下肢が痛いという訴えでした。左の大腿後面から左下肢が痛むので、近くの整形外科を受診しました。そこで腰椎のレントゲンを撮りました。だいたい整形外科の先生は大腿後面から下肢が痛いというと、座骨神経痛と考えるので、必ず腰の写真を撮ります。それで、変形性脊椎症という診断が出され、NSAIDを処方して、腰の牽引を受けなさいという形になったんですが、良くなりませんでした。1ヵ月毎日、毎日牽引を行ったけれども、良くならない。
そうすると患者さんは病院を変えるということになってしまいます。それで、外科の先生のところに行ったんですね。外科の先生はむしろ単純なんで、痛いところを撮ろうということで、大腿部が痛いというので写真を撮って、「こんな骨でした」ということで、がんセンターを紹介されてきました。
実は矢印の場所(大腿骨)で骨が溶けて、後ろに腫瘍が出ており、その後ろにある座骨神経を押していたんですね。この方は肺がんの骨転移でした。整形外科の先生はだいたいの場合、「下肢痛=座骨神経痛」と思い込んでしまうことが多いので、そうではないケースもあるということで出しました。
首の痛みが主訴でも頸椎症でない場合もある
症例2は68歳男性で、もう3ヵ月以上首の痛みが続いていました。当然、レントゲンを撮りました。整形の先生が見ますと、スライドの赤い矢印の部分の椎間板がペシャンコでした。だから頸椎症だと診断し、首の牽引をして痛み止めを飲んでいなさいということになりました。でも、良くならない。
じゃあ、MRIを撮ろうかということで撮りますと、MRIでも椎間板がスライドのような状態でした。椎間板がこれだけ黒いということは変性があるということで、MRIを撮っても診断は同じだということになりました。
この方は良くならないので、また他の病院へ行って、またMRIを撮ってもわからない。それで「おかしい」と感じて、自分でがんセンターに来ました。よく見ますと、首が痛いと言っていましたが、後頭神経痛でした。後頭神経はスライドに「C2,3」と書いてありますが、首の神経の2番目と3番目のところです。
普通、頸椎症の5、6というのは、図の赤丸に×がしてある位置(両肩から肩甲部)が痛くなります。ということで、向こうから持ってきたMRIを見ますと、矢印の部分に病気がある。MRIの横断面像でも矢印の部分に病気があることが確認されました。そこで、スライドのように同部に針を刺して細胞診を行うと、ここにがん細胞が証明され、胸のCTを撮りますと肺がんだということがわかりました。
首が痛いといっても、後頭神経の場合は頚椎上部(C2.3)の病気がある可能性も考えてくださいという症例です。
胸のレントゲンで椎弓根が消えていたら、要注意
症例3は57歳男性で、1ヵ月前から背中が痛いと訴えていました。だいたい背中が痛いというと、胸腰椎移行部のレントゲンを撮ります。このスライドは学生さんにもいつも見せているものですが、どこがおかしいかというと、矢印の部分です。本来なら丸く見える部分、すなわち椎弓根像の消失が確認されます。実は「Winking Owl Sign」という名前も付いているんですが、脊椎の悪性像の典型なんですね。
これは実際には胸の写真を撮ったりしても写ったりしますので、この丸いのが消えたら危ないということをぜひ覚えておいてもらいたいと思います。CTを見ますと、スライドのようになっていました。椎弓根が消失していて、がんがあるという形です。CTで実は腎がんがあることもわかりました。
実際には脊髄神経がすぐそばにありますので、もうすぐ麻痺が出るという状態です。実はこの患者さんはもう紹介されたときには脊髄麻痺になっていて、放射線治療をやったのですが、良くなりませんでした。ですから、こうした状態が見られたら、脊髄麻痺になりやすく、はやく診断、治療が必要と考えていただきたいと思います。
麻痺が出る前に放射線治療を
症例4は81歳の女性で2週間前から左の胸部痛があり、足も痺れていました。近くの病院へ行ってCTを撮ったら、第8胸椎に病気があることがわかりました。「これはおかしい。だろう」ということで、CEAを測りますとCEAは1200でした。それで原発不明がんということで、じゃあ原発の検査をしようということで、胃カメラやエコーをやったり、大腸カメラをやったのですが、原発は不明でした。そのうちにどんどん麻痺が進行してきて、4週間後にがんセンターのほうに紹介されました。
がんセンターでは、入院の翌日にすぐCTを見ながら第8胸椎の病変部に針を刺し、組織を取って細胞診を行いました。その日のうちに結果がわかり、腺がんでしょうということですぐに放射線治療を行いました。3Gy×10日間をその翌日から始めたのですが、結局、麻痺は改善しないで完全麻痺となってしまいました。
一般的にがんの転移による脊椎麻痺の場合は乳がんと前立腺がんを除くと、放射線治療ではほとんど改善を期待できず、改善例率はだいたい5%と言われています。したがって、麻痺が出現する前に放射線治療を行う必要があるということになります。
それでは、麻痺を起こしやすい状態を確認するのに、どういうところを見ればいいかというと、だいたいまず場所は胸椎です。第1胸椎から第1腰椎まで。頚椎は脊椎管が広く麻痺がおこることはむしろ稀です。また第2腰椎以下は脊髄がなくなり、馬尾神経となり、馬尾神経は末梢神経の集まりですので、圧迫による麻痺がなかなか起きないんですね。肺癌などで、内科の先生などが胸部のCTを撮られて、そのCTで実は背骨が壊れているのが写っていることがよくあります。当たり前ですが、整形外科医である我々はCTでも骨からまず見ていって、その後肺のCTのほうを見ることになります。
それから、肋間神経痛というのは非常に重要なポイントです。なかなか普通の人では持続する肋間神経痛は出ないからです。症例5は肺がんの方で、骨シンチを見たら陽性だったので整形に来たのですが、実は呼吸器の先生が撮られた胸部のCTを見ますと胸椎にもう明らかに病変がありました。お話を聞くと、「いや、もうずっと前から左の脇から背中の裏、左の胸にかけて痛かった」ということで、この痛みがまさに肋間神経痛です。
MRIを見ますとわかりますが、腫瘍が脊椎管に侵入しており、脊髄の変形がありますので、これはもう完全に切迫麻痺状態なんですね。この方は麻痺がない状態で放射線治療を開始することができました。
背骨への転移による痛みの緩和にはNSAIDが必須
症例6は73歳の女性で、座骨神経痛という診断でした。痛みが続くために、MRIを撮ったら、スライドのように矢印の部分が黒いことがわかりました。振り返って見ると、実は仙骨のところが溶けていました。CTを撮るとよくわかって、スライドのように仙骨の矢印のところに穴が開いています。
それでがんセンターに紹介されてお話を聞くと、4年前に乳がんをやっているということでした。針を刺して調べ、病理組織上も乳がんの転移でいいでしょうということになりました。この方の場合は実はモルヒネ製剤も出したのですが、NSAIDのほうがよく効きました。
がんの痛みはどういう痛みかというのはなかなか難しいのですが、背骨の転移というのはここから出てくる神経の遮断の痛みが主なことが多いです。いわゆるニューロパシック・ペインであることが非常に多いので、脊椎転移に対してはNSAIDは必須です。
今はがんセンターでこういう患者さんにNSAIDを出すときには、基本的にはガスターも併用しています。整形外科領域ではNSAIDを長く使う方は胃潰瘍のリスクが非常に高いので、ガスターを併用したほうがいいということがもうリコメンドされています。ガスター20mgですと、保険適応もありますので、胃潰瘍の予防の面からは勧められます。
もちろん麻薬系を出してもいいのですが、NSAIDはもう必須であると考えていただきたいと思います。
骨転移に対する放射線治療
次に放射線治療についてですが、効果は80%と言われています。でも、放射線治療だけで痛みがすべて取れることはなかなかないと考えていただいたほうがいいと思います。
また、病的な骨折をしないように予防のために照射の治療もします。痛みがある場合は骨折の予防。痛みがなくても、骨折するかもしれないから予防しましょうということです。骨折をしてしまった後に手術をし、その後で再発の予防のために照射することもあります。
それから先ほど言いましたように、がんが転移して麻痺になった場合、乳がんと前立腺がんを除くとほとんど放射線治療の効果は期待できません。ですから、麻痺が出現する前にぜひ放射線治療を行うような形にしたいと思っているのですが、なかなかこれは難しいこともあります。
一般的には照射範囲が広ければ広いほど障害が強くなります。これは考えてみても当たり前のことなのですが、微量の放射線でも全身に浴びれば死んでしまうわけです。また、体幹寄り、体の中心部を撮るほうが内臓に放射線があたりますので、障害が強くなり、四肢のほうが全身的な障害は少なくなります。
骨が溶けている溶骨性転移の場合も、放射線治療をやってまた骨ができることは通常はなかなか期待できません。骨ができるというのは、むしろ稀なほうです。骨ができたとしても、2ヵ月ぐらいかかります。がんのために骨が溶けていて、そのがんを制御するのに1ヵ月ぐらいかかり、さらに骨折が完治するのにまた最低1月かかりますので、合計2ヵ月かかることになります。
また、1度照射した部位には2度はかけられません。放射線治療というのは基本的に正常組織の障害のギリギリまでかけますので、1度かけた後その部位に2度目をかけますと、正常組織がやられてしまい、腸管の潰瘍など重篤な副作用がおきてしまいます。
乳がんとか前立腺がんで全身療法が期待できる場合は、骨転移がんに対してもまずは全身療法を行うことを考えるようにしています。放射線治療はこのような治療がきかなくなったときに使用するため、とっておくという考えです。
骨転移に対する標準的な照射方法は一応1回3Gy×10日間です。土日は休みですから、普通は2週間が標準的な照射期間となります。
一方で短期照射というのもあります。4Gy×5日間とか、8Gyを1回とか2回というものです。8Gy×2日で16Gyですから、標準的な照射方法の30Gyより全然少ないですよね。でも、一応ほぼ同じ効果が出ると言われています。これは説明すると長くなるのですが、1回量を多くすれば、そうした効果が得られるのです。ただ長期の障害は1回線量を増やせば、必ず増えます。ですので、短期照射は予後が限られた患者さんには適応になると考えてください。
がんセンターでも最近、放射線科の先生が大変忙しくなってしまい、特に四肢のケースでは8Gy×2回などのケースがとても増えています。短期照射は治療期間も短いので、受ける患者さんのほうも負担が軽くて済みます。
骨が溶けている場合の対応
症例7は59歳の女性で、スライドの通り腓骨の矢印の部分の骨が溶けています。お話を聞くと、「いや、実はおっぱいに腫瘤があります」と言うので、乳腺科に行って診断してもらったら、乳がんでした。ここの骨は折れても障害は少ないし、乳がんの初回治療ですので、ホルモン療法が期待できるということで、放射線治療をしないで様子を見ました。
そうすると、1ヵ月でもう痛みはほとんど良くなり、3ヵ月で元のようにきれいに骨ができてきました。
症例8は第12胸椎と第1腰椎がおかしい。先ほどの復習になりますが、矢印の場所に丸がありません。椎弓根像の消失ということで紹介されたのですが、CTを撮りますとスライドの写真のように肺に腫瘤がありまして、肺がんの骨転移でしょうということになりました。
MRIを撮りますと、病変は2カ所ありました。当然やることは決まっています。まず放射線治療、コルセット、オキシコンチン60mg、ロキソニン、デカドロン。少し良くなったのですが、やはり最終的に痛みのために体交ができない、座位の保持ができない、車椅子にも乗れないという状態でした。
CTを見ますと、骨が半分以上溶けてしまっています。こういう脊椎の支持性が破壊されている場合は非常に疼痛コントロールが難しくなります。今言いましたように、放射線療法が効いたとしても骨が再生するまでは最低2ヵ月以上かかります。この方は実は2ヵ月ぐらいで亡くなられました。予後が長ければ、脊椎固定術が適応となるのですが、こういう方の場合は手術治療もなかなか難しいということになります。
多発性脊椎転移で全身療法で効果がない困難症例
症例9は74歳男性で、この方も肺がんです。これは多発性脊椎転移でMRIで見ますと、黒いところが全部転移です。すごく多くてどうしましょうという状態です。普通、放射線治療は病巣椎体の、上下の1椎体を含む照射範囲が一般的です。そうすると、第1胸椎から第10胸椎まで全部、第12胸椎から第1仙骨まで全部放射線をやることになり、放射線食道炎、腸炎、下痢、食欲不振などになって、かなり具合が悪くなってしまいます。
放射線科の先生とも相談し、「一応痛いのは腰椎らしい」ということと、麻痺が出そうな危なそうなところということで、第1胸椎から第5胸椎と第3腰椎から第5腰椎に4Gy×5日でやってもらいました。この方は一時良くなりましたが、またどんどん痛くなってきています。全身療法の効果がなければ、これから呼吸器科で肺がんの化学療法をやるかどうかという話になりますが、結構難しいのではないかと考えています。放射線治療とか薬物療法が進歩したとはいえ、治療に難渋する、すなわち、なかなか痛みが取れず、そのまま無くなってしまう患者さんがいるというのも現状であります。
手術適応になるのは大腿骨骨折や予後の長い場合
次は手術治療ですが、四肢の病的骨折に対しては原則的には手術適応はあります。大腿骨の病的骨折はできる限り手術をします。手術をしなければ、骨折部の痛みは薬物ではとることはできず、清拭、体位交換など基本的な介護もできなくなりますので、原則的に手術を行います。上腕骨の骨折の場合、手の機能は残るし、三角筋でつれば歩行も可能です。骨折の痛みも3〜6週でだいたい軽快します。ただ、上腕骨の骨折では肘を曲げ、伸ばす、肩を挙上するという動作は制限されます。
それから腎がんとか甲状腺がんのように予後が長い患者さんの場合は積極的な手術適応になります。腎がんも甲状腺がんも放射線治療の効果はあまり望めませんので、その面からも積極に手術治療が行われます。
脊椎転移で麻痺になった患者さんも、症例によっては手術をしています。あとは予後と手術のリスクの兼ね合いを患者さんと相談しながら、行っています。
がんの転移の患者さんではないのですが、症例10は悪性リンパ腫の既往があって、右の腕が痛いということでした。2週間前からもうかなり痛くなってしまったというので整形外科に紹介されてきました。スライドのように骨が溶けてしまっています。でも、悪性リンパ腫には放射線が非常によく効くので、手術をしないで放射線をかける予定でした。ところが、1週間後にもう全部痛くなり、骨が折れてしまったのです。しょうがないので、スライドの写真のような形で骨髄に釘を入れて止めました。
これを見ますと、これだけでもかなり進行していますので、進行が早いケースです。でも、今では手術で固定できたので、元気に手を使っています。
症例13は54歳の男性で、肺がんで左大腿部が折れてしまっています。折れてしまうと、全く動きません。動けなくなると、看護婦さんのケアもだいぶできなくなるので、こういう患者さんは腫瘍を取って固定術を行うようにしております。固定の仕方はいろいろな方法があります。
がんがあって、歩いて痛ければ骨溶解を疑う
症例14は45歳女性で、この方もやはり肺がんです。歩行すると足が痛いという訴えでした。スライドのように矢印の場所の骨が溶けています。この方は切迫骨折状態と考えて固定をし、8Gy×1回照射ということで短期照射を1回行い、放射線治療はおしまいになりました。
骨折しやすい状態はどういうものなのかというと、一応、骨溶解像では長径3cm以上です。この方は4cm以上ありました。CTを撮ってもらって、穴が1cm以上開いていたらもう危ない状態です。けれども何よりも、歩いて痛ければもう切迫骨折と考えたほうがいいでしょう。レントゲンで荷重骨に転移があり、歩いて痛ければ、もうどこかにひびが入っていると考えたほうがいいと思います。
長期予後が期待できる場合は積極的な固定術を行う
症例15は71歳で腎がんです。レントゲン上骨に転移が認められますが、実はひびが入っていて、全然四肢は動かせません。そこで、骨セメントとプレートで固定しました。術後に放射線治療も行っています。
珍しいのですが、この方は1年後にまた左尺骨が溶けてしまいました。「もう1回やってくれ」ということで、もう1度手術をしてプレート固定のみ行い今は元気です。他に転移病巣がありませんので、これから長生きして欲しいと思っています。予後が長い患者さんでは、このように積極的に固定術を行っています。
症例16は69歳の女性で第4頸椎腫瘍ということで紹介されてきました。来たときにはもう四肢の不全麻痺があって動けませんでした。レントゲンの像は大したことないようにみえ、スライドのように矢印の部分の4番目の骨が少し扁平化しているのみです。ところが、MRIを見ますと、腫瘍は脊髄周囲にひろがり、脊髄をぐるっと1周回っていました。通常、脊髄は丸いのですが、三角形になっていますから、腫瘍の圧迫によりかなり変形しているということです。
調べてみると、甲状腺がんだということがわかりました。こういう甲状腺がんの脊椎転移というのは長期予後が期待できます。しかも放射線治療は効果が少ないということがわかっていますので、大学から先生に来ていただいて手術をしました。スライドの写真を見るとびっくりしますが、後ろから固定して、それで前後で固定しております。
手術して2年3ヵ月経ちますが、今でも全然元気で普通に生活しています。こういう手術もやりますよ、ということで紹介しました。
1ヵ月以上続く痛みには骨髄転移を疑ってMRIを
症例17は58歳女性です。腰が1ヵ月以上痛い状態が続いていました。レントゲンを見ますと、少し骨粗鬆症があり、骨曲があって少し変形があります。普通これは変形性脊椎症という診断になります。でも、1ヵ月以上続くとやばいよということで、お話をしたことがあって、私の同級生で開業した先生が「じゃあ、MRIを撮ってみましょう」ということで撮ってみました。実はこのT1という撮り方をすると通常は脊椎が全部白く出るんです。しかしこの患者さんではスライドのように黒いところほとんであり、これはすべて転移病巣です。
レントゲンでは骨が何でもないのに、MRIでこうなるというのは骨髄転移が一番考えられます。この方は結局原発巣は肺がんでした。骨髄転移はそんなに多くありませんが、予後が極めて不良ですので、症例として紹介しました。この方は3ヵ月で亡くなりました。骨髄移転というのは、肺がんや消化器のがんに多いのですが、骨の破壊はありません。骨髄に染み渡るように転移するということで、レントゲンを撮ってもわからないんです。CTでもあまりわかりません。ですから、MRIは必須です。
また、多くの場合は、転移の範囲が広範囲です。ほとんどすぐにDICになってしまいます。予後は極めて不良ということで、放射線治療の適応もほとんどありません。
症例18はこの間、他病院から紹介されたものです。70歳男性で、原発巣不明がん、多発脊椎転移です。レントゲンでは何でも所見が見られませんでした。「痛い」と言うので、MRIを撮ってずっと見ますと、これもT1ですので、スライドのように黒いところがずっと転移病巣です。ひどい貧血がよくならず、週に2回輸血をしていました。血小板は7万5,000、Dダイマーが26.0でした。
DICに伴う貧血というのがあって、マイクロアンギオンパシック・アネミーと言うらしいのですが、この方もほぼDICだと診断され、何もできませんでした。残念ですけれども、入院していらっしゃる病院で亡くなられました。
肝臓がん、消化管がん、肺がんの骨転移は予後が短い
最後に予後についてです。うちの整形外科に来た骨転移の患者さんというのは、ほとんど骨病変で初診した患者さんが多いので、途中から来た患者さんのデータはあまりありません。でも、「骨転移があって調べたら、乳がんでした」、「骨転移があって調べたら、腎がんでした」というケースの予後を1度調べたことがあります。
一般的な教科書通りで、乳がん、腎がん、甲状腺がん、前立腺がんの予後は年単位でした。けれども、肝臓がんや肺がん、消化管がんはみんな1年以内だったのです。昔は肺がんは骨転移が来て6ヵ月と言われたのですが、2ヵ月ほど延びています。これはやはり肺がんの化学療法が進歩したということだと思います。
最後まで原発不明という人も実は少しいるのですが、原発がわからない人のほうが長生きするという結果でした。
それから、実は突然死が3人ありました。私のところに警察から電話が入ったケースもありました。1人は甲状腺がんで骨盤内に非常に大きな腫瘤があって、初診から2ヵ月で突然亡くなりました。あとの2人は肺がんの骨転移で、呼吸器科で抗がん剤治療中だったのですが、初診から2ヵ月と4ヵ月、それぞれ朝起きたら死んでいた、夜中に死んでいたという形でした。
だいたい100例で3人ですから、3〜4%ぐらいはこういう突然死があることになります。がんの患者さんで進行期の場合は、血液凝固系の異常が多く認められ、突然死の原因としては血栓肺塞栓症が一番考えられます。この3例も恐らく血栓肺塞栓症が原因だと思っています。進行期のがんの患者さんでは私はそういう突然死があるということを必ず患者さんやご家族にお話をするようにしています。納得する医療という観点からもご家族に前もって説明がいっているということが非常に重要となります。
駆け足でお話ししましたが、以上で終わりにします。ありがとうございました。
<質問>
質問 突然死の話があったが、ご自宅で亡くなられた場合、訪問していた医師は死亡診断書や司法解剖などをどのようにするのが一番いいか。
石井Dr 先ほどの突然死の例の3人のうち2人は私が主治医だったので、私のところに警察から電話が来た。経過を話し、「がんの進行期なので死因は血栓肺塞栓症でいいんじゃないでしょうか」と言ったところ、警察も納得して事件性がないと判断した。がんセンターには運ばれてこなかったので、死亡診断書を誰が書いたのかはよくわからない。
質問 そうすると、病的な内容だと考えられるということで検案書を書くしかないが、ただ、もし私たち在宅医が主治医だった場合、そうした書類を書いてもいいものか。
石井Dr こういう症例で一番大事なことはご本人もそうだが、ご家族が突然死という状況を納得することだ。少なくともがんの進行期で抗がん剤の治療などを行っている場合、何%かは突然死があることを事前にご家族にお話ししておくと、納得が得られやすくなる。
この調査の後にも突然死のケースがあった。そのご家族にはきちんとお話ししておいたので、「先生の言った通りでした」ということで納得が得られた。主治医が話をしておけば、在宅になったときもご家族の納得が得られると思う。
質問 うちの診療所の患者さんは高齢者が多く、腰痛を訴えて来られる方がいるが、座骨神経痛ということで片付けてきた。でも、その中に骨転移が隠れている可能性があると思う。何をマーカーにして判断すればいいのか。
石井Dr 一番のポイントは痛みが長引いて、だんだん悪くなるということ。骨折部はだいたいどの部位でも2〜3週間で線維化して4〜6週で固まるので、1ヵ月、長くても2ヵ月で痛みが取れなければおかしい。もちろん片方が折れて、またもう片方が折れるなど、繰り返す場合もあるが、1ヵ月以上痛みが続く場合は要注意だ。ロキソニンやボルタレンで取れない痛みが続く場合も骨転移を疑って欲しい。
MRIやCTがない場合は、採血をやって欲しい。LDHやALPが上がっていたら、癌の骨転移を疑う。腫瘍マーカーでは出ない場合もあるが、うちでは男性ならCEAとCA19-9とPSAを、女性の場合はCEAとCA19-9をやっている。
質問 『日経メディカル』にストロンチウムの内服が非常に効くと書いてあったが、どうなのか。
石井Dr ストロンチウムは治験の段階で、私の聞いた話では穏やかに全体に効く程度ということだった(私の知識が古く、現在保険医療となっている)。内部照射なので、大量に投与すれば骨髄機能が落ちる。骨髄機能が落ちない程度にやる形になるので、どこででもできる状況ではないと思う。千葉県がんセンターでは来年1月からできるようになる。
質問 骨転移のある患者さんの搬送時や入浴時の注意事項を教えて欲しい。
石井Dr 難しい問題だが、折れるのを恐がっていたら、患者さんにずっと寝ている生活を強いることになってしまう。寝ていたらどうなるかというと、寝たままがんはだんだん進行するだけだ。
「これから一番大事な何ヵ月かをずっと寝ているんですか。折れるのを恐がらずにやってください。折れた場合はしょうがないです。誰が悪いんじゃない。ケアする人が悪いのでも、医者が悪いのでもなく、病気が悪くて折れる状態だったんだ」というようなことを患者さんとご家族に話しておくのが大事だと思う。そのうえで、患者さんが痛くないように移動していただくしかないと思う。
病院によっては背骨に転移があると、寝っぱなしにしてしまうようだが、背骨が折れて麻痺になってしまう可能性があっても、私は起きて動いたほうがいいのではないかと考えている。
≪2008年5月11日 在宅医懇話会第3回研修会≫
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