がん痛みの治療の誤解を解く
依存、精神障害、有効限界
−臨床薬理学的な話題を中心に−
日本医科大学千葉北総病院 麻酔科 益田律子
略歴
昭和55年日本医科大学卒業。獨協医科大学付属病院、国立栃木病院、日本医科大学付属第一病院などの麻酔科を経て、現在、日本医科大学付属千葉北総病院・麻酔科準教授。日本麻酔学会、日本ペインクリニック学会など12の学会に所属し、日本麻酔学会の指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本ペインクリニック学会評議委員として活躍中。
医療用麻薬とオピオイドについて
麻酔科医なので疼痛治療は頼まれて取り組んできました。特に3年ぐらい前からチームを組んで仕事をするようになってから、まだまだ未熟であるということを実感しています。大岩先生からいただいたテーマががんの痛みの中心的治療であります「依存、精神障害、有効限界について」ということで、これは麻酔科医にとってぴったりの演題だということでお引き受けしました。
第1回の懇話会でこういった機会をいただきました大岩先生に深く感謝をしたいと思っています。また、懇話会に入るきっかけを作ってくださいました宍戸先生にも感謝しております。
早速話を始めますが、麻酔科医の意見としてお聞き下さい。今日お話しするのは、まずオピオイドと医療用麻薬はどういうものかということです。それから、臨床使用上誤解されやすい問題点は何か。オピオイド有害作用を制御するための工夫。そして、在宅診療に応用できるかもしれないPCA法。これはうちでやっている方法をご紹介したいと思います。また、オピオイドで対応困難な疼痛と対処法の一部を提言できるかもしれません。
はじめに手前味噌で申し訳ないんですが、そもそもうちの病院に星薬科大学という日本でもオピオイド研究で世界的に有名なラボ出身の薬剤師さんがおられて、その方が「緩和医療チームが必要である」と提言し、4年ぐらい前に緩和医療チームを結成しました。その関係で『痛みの治療薬』(Howard S. Smith編著)という本も翻訳させていただく機会がありました。これは高橋先生にもご協力いただいて、今日お話しするところは高橋先生が担当されたところです。
また、一緒に仕事をしてくださった北里大学の薬学部の方から、『改良型新薬創製のための薬科学−神経伝達系・中枢神経系に作用する薬物』(Williams DA, LemkeTL編著)という専門書を、薬を作る立場からということでご紹介いただきました。これも非常に参考になる専門書でしたので、これらをベースにしてお話しします。これからお話しすることは、決して私の浅はかな考えからのものではないということをご承知いただきたいと思います。
まず医療用麻薬、オピオイドというのは何を言うのか。そもそもオピオイドというのはモルヒネのような薬理作用があって、体の中のオピオイド受容体に作用するすべての作動薬のことを言います。アヘンやモルヒネなどの薬物が意識を消失しないで、非常に高い再現性を持ち、鎮痛効果が強いものだということがわかっていました。そうしたことが発現するのは、そもそも体の中に受容体があるからではないかということで、インスリンの受容体が流行っていた時代に、オピオイド受容体が先にわりました。それならきっと体の中にモルヒネ様の物質があるんだろうということで、今度はペプチドが発見され、徐々に合成オピオイドが作られてきたわけです。オピオイドの受容体も1つではなくて、μオピオイド受容体、κ受容体、σ受容体、ノシセプチンといったいろんなタイプのものがあります。
医療用麻薬とは何かというと、μオピオイド受容体に対する完全作動薬のことです。これは非常に調整しやすいということを意味し、コデイン、モルヒネ、フェンタニル、ペチジン、オキシコドンを指します。こういったものがWHO方式がん疼痛の第2、第3段階で用いられます。その他の部分作動薬はペチジンといったようなものがよく知られています。
麻薬性鎮痛剤は適切に使えば依存は問題にならない
WHO方式がん疼痛治療法で「がん患者に対して鎮痛を目的としてモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬を適切に使用した場合、その精神依存はほとんど問題にならない」ということが提唱されています。がん患者さんに適切に麻薬性鎮痛薬を使用すると、身体依存性がある程度は形成されます。けれども、乱用者と比べると驚くほど弱く、麻薬投与の中断に際してもゆっくり漸減していけば退薬症状はほとんど問題にならないということが言われています。
これが本当かどうかというのが、今日の中心的な話になります。オピオイドに対する耐性と身体依存、嗜癖、薬物乱用によるアディクションは違うもので、混同してはならないということが、私たち医療者の認識しなければならないことです。
その背景には疼痛があるかないかで、全然身体依存性の形成も違いますし、薬物乱用に至る発現率も違います。疼痛があれば身体耐性が非常に形成されにくく、耐性を起こさないで持続的に鎮痛効果を得られることが多いというのが、薬理学者のエビデンスです。臨床からのエビデンスとしては疼痛原因の増悪がなければ、さらにずっと投与量が永久に安定していることがあります。というより、むしろほとんど安定しています。私共のペインクリニックの外来では、慢性疼痛の方にオピオイドを使うことが多いのですが、ほとんど安定しています。増量で困ったということはほとんど経験したことがありません。
オピオイドの身体依存性と薬物乱用は違うということをもう1度認識するために、耐性、身体依存、退薬症状という3種類のことについては、生理的かつ薬理学的な現象で、患者さんの責任ではありません。けれども、患者さんが不適切な使用をしていたり、あるいは医療者が不適切に処方していたりすると、オピオイド使用に執着する心理学的、社会的障害で常軌を逸脱した自己脅迫的行動という薬物のアディクション、嗜癖と言われるものが出てきます。
もう1つ医療者が注意しなければならないのが、耽溺性、アディクションと言って、これは主にオピオイドの使用量が適切に投与されていない場合に生じます。つまり少なすぎる使用量だと、患者さんは痛いから「もっと欲しい」と要求をされるんですが、医療者側は「それは乱用につながるからいけない」という ことで出さない。患者さんはいつまで経っても、痛くて動けなくて苦しみを味わうわけです。
しかし、適切な薬物調整を行って、適切にタイトレーションして増量すると、ずっと疼痛と身体機能の改善が得られます。身体的問題であって、嗜癖とは異なるものだということが挙げられます。これは特に慢性疼痛で私たちの疼痛外来で、非常にしばしば日常的に見られる状態です。
オピオイドへの誤解 薬物乱用と耽溺性
次にオピオイドへの誤解についてです。薬物乱用と耽溺性に関しては、生理的、神経生物学的な解明が進んでいます。すべての薬物依存は薬物が脳の中の自己報酬系を刺激することで生じるということがわかっています。脳の視床の辺りにドパミン神経系というものがあり、その中にドパミンがたくさん放出されると、非常に多幸感を経験するわけです。
薬物依存は一般に薬を使用した後にドパミン神経系が活性化されて、ドパミンがものすごくたくさん出て、すごく幸せな気分になる。それで、薬を使うとそういった体験をするために渇望ということが起こるわけです。こういったことを起こすものは、アンフェタミン、ニコチン、アルコール、ケタミン、コカインといったような非常に脂溶性の高い薬物で、すぐに頭の中に入ってしまうようなタイプのものです。さらに、こういった現象を引き起こすのは、喫煙や静脈内投与、血中濃度が上がりやすいものであるということがわかっています。
ただ、自己報酬系、次に薬が欲しいと切望する発現は、反復活性、長期間の活性によって元々正常化する自己制御機構というのが頭の中にあって、正常化するというホメオスタシスが働きます。ですから、頭の中に徐々に分布される薬物は自己報酬系の活性化が制御されるために、非常に薬物乱用に至りにくいということがわかっています。これは何を意味しているかというと、臨床上の使用方法ではオピオイドによる薬物乱用には非常に至りにくいということです。
その模式図としては、薬物乱用に至るドパミン神経系が刺激されて、ドパミンがたくさん出る。例えば、コカインが受容体にくっつくと、ドパミンがたくさん出て多幸感を味わったりします。ただし、1つこれにブレーキをかけているGABA介在ニューロンというのがあります。しかし、痛みのない状態では、モルヒネやヘロインなどのμ受容体作動薬はGABA系を抑制して、多幸感を来すということがわかっています。
ただ、オピオイドで多幸感を来すというのは、あくまでも無痛実験、無痛の状況です。ところが痛みがあった場合には、オピオイドに自己報酬効果や精神依存がもたらされるということはないということがはっきりわかっています。これは動物実験でもわかっていますし、臨床でも裏付けられるところです。
もう1度繰り返しますが、疼痛があった場合にはオピオイドで自己報酬効果、精神依存は生じない。これを動物実験で再現したのが鈴木先生たちのグループです。炎症性疼痛、神経障害性疼痛の下では、モルヒネなど医療用麻薬による有意な報酬効果は発現しなかった。これはラットの実験でも証明されています。
疼痛があるとなぜ報酬効果が薬物乱用に至らないのかということを1歩進んで解明すると、そのドパミン神経系にいろんなことが起こっていることがわかります。1つはκ受容体作動薬という、やっぱりブレーキをかける物質があるんですが、それがどうもたくさん遊離しているらしいということ。それからブレーキがかかりやすくなっていることもわかっています。
つまりもう1度まとめますと、痛みがある状態では非常に身体依存性も精神依存性も、薬物の乱用に至る危険性が極めて少ないということが言える。痛みが安定していればですが、いつまで経ってもオピオイドの量は一定に推移するというのが現実です。
もう1つ、オピオイド臨床使用上の誤解されやすい問題点としてオピオイドによる鎮痛作用の特徴があります。オピオイドはNSAIDsやアミノアセトフェンといった薬物の鎮痛効果と何が一番違うのか。1つは元々オピオイドは体の中にある受容体にくっつく内因性のリガンドと同じかさらに小さい分子量で、元々体の中に存在するものに非常に近いというのが、その答えになるかと思います。
ですから、体の中のいろんな代謝経路に影響しません。例えばNSAIDsなどは元々異物ですので、どんな小さい臓器であっても、例えばアラキドン酸カスケードにあるプロスタサイクリンやトロンボキサンといったような血小板の機能にも影響するような作用があります。また、NSAIDsの場合には鎮痛効果に天井効果があります。ところが、オピオイドはその本来持っているリガンドと受容体という、鍵と鍵穴のような関係が非常にたくさんあるので、天井効果がないということがわかっています。
これは確かにμ受容体作動薬だけに限ります。κ受容体やσ受容体の場合ですと、やはり鎮痛効果に天井効果があるようです。ただし、少なくとも医療用麻薬と呼ばれるものについては、天井効果はないということがはっきりしています。
鎮痛効果の強さは、オピオイドによって占有された受容体の数によって決まります。そして、投与量が増えるほど鎮痛効果が強くなります。それでは、どこまで増やしていいのか、どんどん増やしていっていいものかというと、やはり考えなければならないのは副作用の点です。副作用がコントロールできれば、上限なく増量が可能というのが一番正解の回答になるということです。
私たちは麻酔科医なので、手術の前後で非常に大量のオピオイドを使います。例えば、この方は骨盤骨折で坐骨神経、大腿神経を挫滅しています。普通、1日当たりの集中室期のモルヒネ使用量は、全くそれまでオピオイドを使ったことのない初めての患者さんですと、普通は30〜40mgぐらいのモルヒネす。しかし、この方の場合は1日100mg使いました。
また、交通外傷で腰椎の椎体の破裂骨折をされている30代の方だったんですが、最初は多いだろうと思って1日60mgのモルヒネを静注していました。ところが、全然痛みが取れなくて、ずっとうなっていて、もう仕方がないのでPCAポンプでタイトレーションをしました。そうしたら、200mgを超えたところで、「やっと楽になって、しゃべれます」と仰ったのをよく覚えています。このぐらい疼痛の程度によって必要なモルヒネの量が違うということを思い知らされた症例です。
特に最近は手術中には、大量にオピオイドを使います。しかしながら、投与を終わった後、高次脳機能には全く影響してきません。最近使い始めたレミフェンタニルという麻酔用のウルトラショウタイピングのオピオイドがあります。これはもう際限なく増やせる薬物です。これを使うようになってわかったことは、すべての体に関するストレスはオピオイドだけでコントロールできるということです。そのことを麻酔科医は身をもって体験することができます。
ただ、その有害な作用として、際限なく増やしていった時に何が起こるかというと、呼吸抑制や循環抑制が出ます。麻酔中はこうしたことへの対処がなされるために、際限なく使うことができます。副作用のコントロールがいかにできるかということが、オピオイドの使用規定の一番の要因になると思います。
長期処方や大量処方でも問題なし
オピオイドによる鎮痛作用のその次の誤解されやすい問題点は、長期処方でどこかの臓器に影響が出るのではないかということです。答えは不可逆的で進行性の臓器障害は今のところ報告されていないということです。海外では慢性疼痛で長期的に、例えば数年間のオピオイド使用について非常に多くの経験の集積がありますが、すべて可逆的なものばかりです。使用によって、ごく一般的な便秘、発汗障害、乳汁分泌、その他に男の方の性機能減退、それから痛覚過敏などがあります。免疫系については少し影響があると言われています。しかし、すべて可逆的なものです。
ただ、私たち医療者が注意しなければいけないのは、レスキューを増やした時に認識機能が一過性に低下するということです。例えば投与量をちょっと変えてみたという時に車の運転を避けるとか、普段やっている日常の動作を少し注意して、配慮して注意を促さなければいけないということが言えると思います。しかし、こういったものも耐性獲得が非常に速くて、2、3日で戻ると言われています。
長期的に大量のオピオイドを使ってどうかということも言われます。例えば両側血気胸、人工呼吸、骨盤骨折、坐骨神経・大腿神経挫滅といったひどい交通外傷症例で、フェンタニルで48トー、デュロテップパッチにすると多分40mgぐらいになると思うんですが、これを20日間投与しました。あるいは広範囲熱傷、気道熱傷、人工呼吸のケースで24トーを90日間。こういった症例は急性期の外傷の患者さんですと、しばしば経験します。けれども、認知機能障害、脳障害なく離脱し、軽快して社会復帰されるわけです。
がん治療だけでなくて急性期疼痛も含めますと、非常にたくさんのオピオイドが使われていますが、オピオイドによる高次脳機能障害というのは、今のところ報告されていません。
オピオイドは種類による違い、個体差が非常に大きい
オピオイドによる鎮痛副作用の特徴としては、個々のオピオイドで違いがあるということと、個体差による違いが非常に大きいということも挙げられます。それぞれのオピオイドで代謝経路や排泄経路が異なります。それから、同じ個人であってもオピオイド受容体の形も違えば、代謝酵素も遺伝的に違います。ですから、ある1種類の、例えばオキシコドンが全然効かない、一瞬効くけれどもすぐ切れてしまうというスーパーエリミネーターと呼ばれる人もいます。例えば、うちの病院でしたら、1日5回オキシコドンを使わないとどうしてもだめだと仰る方がいました。
あとはすぐドロドロに眠くなってしまうというプアメタボライザーという方がいらっしゃることは事実です。しかし、個人差が強いので、ある1種類のオピオイドでうまくいかなくても、オピオイドの種類を交代することによって、交差耐性が生じにくいといううれしい事実があります。ですから、別のオピオイドに変えてみるというのが非常にいい対策だと思います。
鎮静がオピオイド減量の大きなサイン
誤解されやすい問題点としてはさらに、どの症例でも耐性を獲得し、1度処方すると常に増量し続けなければならないのではないかということがあります。しかし、μ受容体作動薬に関しては、そんなことはありません。疼痛とオピオイドの必要量は比例します。確かに若干の身体耐性は獲得するものの、疼痛が軽減すれば減量も離脱も十分可能であるというのが慢性疼痛に対するオピオイドの使用経験からも明らかになっています。
スライドには鈴木先生による副作用の発現ラダーがありますが、適切な用量では便秘や吐き気が発現する量よりも多い。けれども、過剰投与になると眠気が出てきて、鎮静が出てきます。ですから、鎮静はオピオイドを減らさないといけないという非常にいいサインになります。さらに多いと呼吸抑制や有害な死というものも待っていますが、この辺は明らかにわかりますので、臨床症状で十分把握することができます。
オピオイドの副作用対策
オピオイドによる副作用対策は、先ほど坂下先生が仰っていたので、こちらでは省きます。さっきノバミンでスイタイガイロ症状が出ると仰っていましたが、最近、統合失調症治療薬で出たルーラン錠はスイタイガイロ症状を起こしにくいということで、星薬科大学の人たちのお勧めだそうです。
これも副作用対策で、ご高齢の男性はオピオイドを出す時、排尿障害があるかないかということをいつも聞いてきます。何回か尿閉で困ったと言って戻られたことがありました。そういう時にはペタネコールやタムスロシンを使います。非常にやさしい薬なので併用して、最初の2日だけ出して、あとは切っています。
今後非常にがん治療対策がうまく進んで、がんが縮小過程であるけれども非常に長くオピオイドを使われる方もどんどん増えていくと思います。その時注意しなければならないのは、長期的にオピオイドを使われている方にナロキソンを使うのは、非常に慎重でなければならないということです。というのは、1年以上投与されている方でナロキソンが不用意に投与されると、もちろん退薬症状が出ますし、非常に重い循環器合併症、高血圧、頻脈、ひどい場合は肺水腫、心不全を起こす可能性があるからです。長期的にオピオイドを使われる方のナロキソン投与というのは特に注意が必要で、非常に微量からで、吐かないような工夫が必要だということです。
オピオイド鎮痛法で効果が不十分な場合には、先ほどの坂下先生のご講演と重なりますが、経口投与の場合など投与経路を変えてみる。あとはオピオイドの種類を変えてみる。それからもう1つ神経障害性疼痛の可能性はないかどうか。鎮痛補助薬が有効に使われているか。あとはオピオイドの作用を増強するというNMDA拮抗薬を使ってみたか。その他の薬物投与療法以外の鎮痛法は十分検討されているかということを考える必要があります。
NMDA受容体拮抗薬併用によるオピオイドの身体耐性形成抑制
次にオピオイドの身体耐性形成の抑制をどうコントロールするかについてです。慢性的な疼痛では長期使用しても必要量は増加しません。ただ、慢性疼痛ではなくて、がん疼痛でオピオイド必要量が増大する場合、身体耐性の発現を考えるよりも、基礎疾患の進行を意味していることが圧倒的に多くあります。基礎疾患の進行がなくて、ただオピオイド必要量が増えていっているという場合には、身体耐性ということになるわけですが、それをコントロールする1つの方法として、NMDA受容体拮抗薬の使用が提唱されています。あとはやはりオピオイドを変えるということが勧められています。
緩和医療で用いられているNMDA受容体拮抗薬としては、まずケタミンがあります。これは静注と皮下注で1日が100mg以下であれば、それほど有害な中枢症状を出さないで強い鎮痛効果、オピオイドのリッカーを戻すことができます。ただ、これ自体身体耐性形成があり、依存性がありますので麻薬指定になっています。しかし、ポイント、ポイントで困った時にある期間一時的に使うというのもいい方法ではないかと思います。
その他、それ自体が身体依存性を形成しない薬物としては、イフェンプロジル、商品名ではセロクロールやアポノールといったものがあります。ただ、非常にオピオイド拮抗作用は弱いので、もうちょっと強くしたい場合はケタミンを使うことが多いかもしれません。
例えばうちの病院の症例ですが、77歳男性で前立腺がん、大腿骨転移、放射線をもう既にやっている症例です。安静時はそれほど痛くないんだけれども、大腿骨に転移していますから動くと痛い。そこでレスキューにオピオイド、フェンタニル25mgを使っていて、オプソが80mg出されていました。けれども、これを飲むとすごく気分が悪くなってしまう。このため、硬膜外鎮痛をやって欲しいという依頼がありました。しかし、レスキューだけの経口を皮下・静注経路に変えてみました。1回のデュロテップパッチはそのままにして、まず皮下注、1回投与量が4%のモルヒネを使いましたが、皮下で15mgとケタミン2mgだけ使いました。
これで非常に良くなられて、6ヵ月間小康状態です。硬膜外鎮痛をやらなかったのは、この4mgがすごく長かったということがあるので、まず全身投与が優先されるだろうと思いったからです。それでまず皮下注にしました。6ヵ月後に少し弱いということで、今度は静注に変えました。これは皮下ポートにして、レスキューだけPCAにしています。1回のレスキュー量がモルヒネで30mg、ケタミンで2mgとしまして、8ヵ月後、今もとてもお元気な状態で車椅子で動き回っておられます。
やはり電動式PCAポンプがあるのが理想的なんですが、なにぶんうちにはまだなく、ディスポーザブルポンプを工夫して使っています。一般にはレスキューだけで、PCAポートを患者さんの側に付けます。押さなければ入っていかないので、レスキューだけです。皮下注は1回投与量が0.5cc。皮下注用にはこの中にステロイドを入れます。そうすると皮膚の炎症が抑えられるので、すごく長く皮下注ができます。
静脈用の場合のポートは1回に2cc入ります。ですから、4%モルヒネを使えば多分、デュロテップパッチ40mgぐらいまでなんとか対応できるという計算になります。
特殊回路が有効であった代表症例ということで、一番いいのは、動けないという人の体交や清拭、褥瘡ケアが今のシステムで有効になることです。うちはなんといってもPCAポンプが少ないものですから、デュロテップでベースをして、レスキューを今のようなポンプでするというパターンが非常に多いです。電動PCAポンプがたくさんあれば、先ほどの坂下先生のご講演のようにしたいと思っております。
オピオイドが効きにくい神経障害性疼痛への対策
最後にオピオイドが効きにくい痛みというものも確かにあります。これは神経障害性疼痛と言って、末梢神経、脊髄神経の損傷で起こるもので、普通のがんの筋肉や皮膚や骨といった侵害受容性疼痛とは全くタイプが違います。電気的な異常で起こる痛みですから、神経障害性疼痛の治療薬には神経の電気的な興奮性を抑えるもの、すなわち抗てんかん薬や抗不整脈薬が有効です。
簡単にちょっと問診しただけでわかるのは、「電気が走るような痛みだ。ビリビリッとする」と言ったら、もうほとんど9割方神経障害性疼痛が疑われます。もちろん理学検査、感覚検査でわかることもありますし、画像で「神経がやられている」とわかる場合もあります。確実にするために、不整脈治療用ぐらいの低用量リドカイン、例えばプロピオ1mgぐらいのリドカインの点滴をして非常に良くなったということであれば、もう間違いなく神経障害性疼痛であるという確定診断がつくわけです。そして、そのままリドカインの静注をすることもあります。
今言いましたように、電撃様疼痛、電気が走るような痛み、焼け付くような痛み、触っただけでも痛む、しびれ、知覚異常があるという場合には、この神経がやられている痛みが考えられ、オピオイドだけではコントロールが非常に難しいタイプの痛みだと言えると思います。
スライドに神経障害性疼痛に用いられる薬物の開始量と維持量を示しました。先ほど坂下先生が仰ったように、全部眠気が出てくる薬なので、ごく少量から始めます。投与のポイントは、まず寝る前に最初の投与をすることです。朝投与すると、日中に誤嚥したり、転んだりすることがあります。それを避けるために、まず夕方出して大丈夫であれば、朝、昼増やしていくということです。
その他の注意点はクロナゼパム、ゾニサミドは非常に半減期が長いので、3日目、4日目に倒れたり、誤嚥したりすることがあり、これも要注意です。ガバペンチンは半減期が短いので、最初ちょっとグラグラしたりするかもしれませんが、逆に3日目、4日目はだいぶ落ち着いてくるというタイプの薬です。内服できない方はリドカインということになります。
最後にどうしても全身投与経路でうまくいかない時に、私たち麻酔科が頼まれる硬膜外鎮痛や中枢神経・脊髄レベルの鎮痛はどういう時に適応になるのかというのを示したプロトコルをスライドで示しました。そこに書いてある通りなのですが、ただ、どうしてもがんを持っている患者さんというのは非常にハイリスクグループで、稀ではない重大な合併症があるということを認識しております。ですから、余命が限られている方というのは基本的にできるだけ全身投与で行くべきだというのが私たちの考えです。
まとめ
まとめに入ります。オピオイドに対する耐性、身体依存性は薬理学的な現象で、嗜癖などといった薬物乱用と混同してはならないということ。これは患者本人による薬物乱用と、医療者側にも責任があると思います。
また、がん患者に対して鎮痛を目的として、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬を適切に使用した場合、その精神依存性はほとんど問題にならないということ。
μ受容体作動薬に天井効果はないということ。不可逆的かつ進行性の臓器障害は報告されていないということ。
単一のオピオイドだけで除痛の効果が得られない時は、投与経路を変えてみたり、オピオイドを変えてみたり、耐性形成を抑制するとともに、病態が神経障害性疼痛ではないかどうかということを確認するなど、各種の対策が必要になると思います。
ご静聴ありがとうございました。
≪2007年12月2日 在宅医懇話会第1回研修会≫
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